外科・小児外科で治療を行う主な疾患、症状
- 外傷、熱傷
- 異物刺入(トゲや釘が刺さった時など)
- 巻き爪
- 床ずれ
- 便秘
- 腹痛、下痢、嘔吐
- でべそ(臍ヘルニア、臍突出)
- 足の付け根の腫れ(鼠経ヘルニア)
- 陰嚢の腫れ(陰嚢水腫)
- 精巣が腫れる、触れない(急性陰嚢症、移動性精巣、停留精巣)
- おもらし(遺尿、夜尿、遺糞)
- 皮膚の乾燥、湿疹
- お尻の腫れ
- 包茎 など
外科・小児外科
General Surgery / Infantile surgery
切り傷や擦り傷などの外傷は皮膚が損傷され内部の組織が露出した状態です。細菌の感染を避けるため早めの対応が必要とされます。止血のために局所麻酔をして縫合が必要な場合もあります。傷口に消毒液をつけることがありますが皮膚には刺激が強いことが多く、まずは、傷口をきれいな水や水道水などで洗い流すことも必要です。
腸の中には、食べ物(人にとっては異物)や細菌などが存在し、それに対して人の体はいろいろな細胞(リンパ球や白血球など)や抗体をつくり、異物や細菌から体を守ろうとする働きを持っています。このような働きのバランスがくずれて、腸の一部または全体に炎症、出血、壊死(細胞が部分的に死ぬこと)などがおこることを腸炎といいます。
腸炎の病因には下記に示すように多くのものが知られています。小児では、細菌やウイルスなどの感染症による腸炎が最も多く見られますが、感染以外では抗生剤によるもの、ミルクなどのアレルギーによるものなどが比較的多く見られます。また小児外科に関係した病気では、ヒルシュスプルング病で腸炎がおこりやすいことが知られています。
便秘とは、排便の回数または排便量の少ない状態をいいます。
小児の便秘には、少ないながら何らかの原因があっておきることがあります。その原因になる病気には、体のつくりの異常(鎖肛(直腸肛門奇形)など)、ホルモンの異常(甲状腺機能低下症など)、脊髄神経の異常(二分脊椎、髄膜瘤など)、腸の神経の異常(ヒルシュスプルング病など)、おなかの筋肉(腹筋)の異常(腹壁破裂、ダウン症候群など)のほか、常用の薬(抗痙攣剤、麻薬など)、精神発達の遅延、精神的なもの、毒物によるものなどがあります。
しかし、便秘の大部分は、結腸が長い、腸の動きが悪い、腸の水分の吸収が少ないなど、原因としてあげることはできても特定はできない、いわゆる特発性のものが多いです。
小児では2~3日以上排便がなければ治療を受けたほうが良いでしょう。治療の目標は、腸に貯まった便をなくして、1~2日に1度の排便が続くようにすることです。便のかたまりが貯まっているときは、まず直腸に貯まっている便を出します。そのためにまず浣腸や洗腸を行い、さらに薬を服用して毎日排便できるようにします。排便の習慣ができるまで時間がかかることも多いので、副作用の少ない薬が必要です。緩下剤が有効で薬を中止できるのは約70%で、残りの30%は長期にわたっていろいろな薬による治療が必要です。最近は漢方薬も有効とされています。原因のない便秘でも、長い間にわたって便秘がよくならないときには、内肛門括約筋切除術などの手術を行うこともあります。
おちんちんの先を包む皮膚(包皮)の口が狭いために、おちんちんの先(亀頭)を出せないものを真性包茎といい、包皮をめくって先を出せるものは仮性包茎といいます。一般的に包茎といえば真性包茎をいいます。しかし、小児の包茎は病気ではなく、生理的な状態です。
真性包茎には生まれつきのもの(先天性)と生まれてからおこるもの(後天性)があります。真性包茎は年齢が上がるにしたがって少なくなり、新生児ではほぼ100%、1歳までの乳児では約80%、1歳から5歳の幼児では約60%、小学生では約30%でみられ、思春期以降ではさらに少なくなります。後天性包茎は、包皮が何回もただれたあとや、環状切開術のあとに皮膚が狭くなってできることがあります。
一般的に、子どもの包茎はほとんどが治療を必要としませんが、以下の治療もありますので紹介しておきます。
生後間もなくへその緒が取れた後に、おへそがとびだしてくる状態を臍(さい)ヘルニアと呼びます。生まれて間もない時期にはまだおへその真下の筋肉が完全に閉じていないために、泣いたりいきんだりしてお腹に圧力が加わった時に、筋肉のすきまから腸が飛び出してきて、おへそのとびだし「でべそ」の状態となるわけです。触れると柔らかく、圧迫するとグジュグジュとした感触で簡単にお腹に戻りますが、あかちゃんが泣いておなかに力が加わるとすぐに元に戻ってしまいます。おなかのなかの腸が出たり入ったりする結果です。
このヘルニアは、5~10人に一人の割合でみられ、生後3ヶ月ころまで大きくなり、ひどくなる場合は直径が3cm以上にもなることがあります。しかし、ほとんどのヘルニアはおなかの筋肉が発育してくる1歳頃までに自然に治ります。
ただ、1~2歳を越えてもヘルニアが残っている場合や、ヘルニアはなおったけれども皮膚がゆるんでしまっておへそが飛び出したままになっている時には、手術が必要になることがあるため、ご相談ください。
お腹の中にある臓器(小腸、大腸、大網という膜、女児であれば卵巣、卵管)が飛び出してきて、鼠径部が腫れてくる病気を鼠径ヘルニア(脱腸)といいます。子どもの外科手術では一番多い病気です。発生率は子どもの1~5%とされています。
原因は腹膜鞘状突起という腹膜の出っ張りが鼠径部に残っていることにあります。腹膜鞘状突起は、胎生期後半に精巣が腎臓の下あたりから鼠径部に下降して来る時に、腹膜が鼠径部に伸びてできたものです。女児に精巣下降はありませんが、同じ現象が発生します。精巣が陰嚢内に下降した後は、多くの場合は自然に閉鎖してしまいます。右にも左にも出ることがあり、両側に認めることもあります。片側の鼠径ヘルニアの手術後、反対側に鼠径ヘルニアが出てくる確率は10%程度といわれています。性別では男児だけでなく女児にも同様にみとめます。
ヘルニアのとおり道には狭い場所があり、飛び出した臓器がこの狭い場所で締め付けられ、飛び出した組織の血流が悪くなることがあり、これをヘルニア嵌頓といいます。一度、ヘルニア嵌頓を起こすと脱出した臓器はむくみ、硬くなりお腹の中に戻りにくくなります。子どもは痛みのため、不機嫌になります。このような時は両親が、慌てずに抱っこなどして泣かさないようにしてから、時刻に関係なく直ぐに主治医に連絡してください。
年少児の鼠径ヘルニアは自然に治ることもあるといわれていますが、自然に治ることを過度に期待して手術時期を遅らすことは良くありません。原則として、嵌頓傾向のないお子様の場合、施設により異なりますが生後4~6ヶ月以降に予定手術としますが、少しでも戻りにくい場合は早期に手術しても問題はありません。入院期間は1-5日程度で、日帰り手術の施設もあります。手術はヘルニアの原因になっている腹膜の出っ張りをなくし腹圧がかかってもお腹の臓器が脱出しないようにします。
鼠径ヘルニア手術は、簡単な手術のように考えられがちですが、専門的には難しい側面が多く、小児専門施設での治療が不可欠です。これらの病気は小児外科の日常診療でよく見かける疾患です。お母さんのお腹の中にいるときに腹膜が鞘状に飛び出したもの(腹膜鞘状突起)が引っ込まないで残った状態で、その鞘状突起に腸などが入ると鼠径ヘルニアになりますが(鼠径ヘルニアの項を参照)、水が貯まると水腫になります(図1)。陰嚢に水がたまることを陰嚢水腫、鼠径部に水がたまることを精索水腫、女児の鼠径部に水がたまることをヌック水腫といいます。
診断は懐中電灯などの光が通過する(透光性)ことなどで判断しますが、超音波検査も有用です。
乳児(1歳未満)の場合は自然に治癒することが多いといわれています。以前は針を刺して水を抜く場合もありましたが、子どもに恐怖を抱かせるうえにすぐに再発することが多いので最近はあまり行いません。
1歳を過ぎると自然治癒がしにくくなります。鼠径へルニアを合併していたり、痛みが強い場合や本人が腫れを気にするようなら手術が望ましいでしょう。
手術は鼠径ヘルニアと同じ方法で、数日の入院(病院によっては日帰り入院)が必要です。
陰嚢の中に精巣(睾丸)を触れないときは、停留精巣(ていりゅうせいそう)(停留睾丸ともいいます)の可能性があります。普段、陰嚢が空のようでもお風呂に入っている時、リラックスして座っている時などに精巣が陰嚢内に触れるような場合、移動性精巣と呼び、必ずしも手術適応ではありません。リラックスしているときでも陰嚢が空であれば停留精巣であり、手術が必要となります。移動性精巣と停留精巣の区別は難しいことも多く、小児外科医・小児泌尿器科医に相談して正しい治療方針をたててもらいましょう。
精巣はお子様があかちゃんでまだお母さんのお腹にいる時、腎臓に近いところから次第に下降し、鼠径管という下腹部のきまった道を通って陰嚢の中に下降します。この精巣の下降が途中で停まったものが停留精巣です。陰嚢の中とそれ以外の場所、特にお腹の中では精巣が陰嚢の中にある場合に比べ、2-3度高い温度環境にさらされているといわれています。高い温度環境にある停留精巣では精子を作る細胞が少しづつ機能を失い数も減少してゆきます。この変化は温度が高ければ常に進行してゆくので、手術で精巣を陰嚢内に固定する必要があります。また、お腹の中にある停留精巣を放置しておくと、成人になってからがん化することもあるといわれています。
停留精巣の手術で大事なことはいつ手術するかということです。精巣の機能低下を防ぐためには早いうちに精巣を陰嚢内におろしてあげることが必要です。以前は5歳ぐらい迄に手術すべきであるといわれていましたが、それでは遅すぎることがわかってきました。今では遅くとも2歳迄に手術をするのが良いとされています。生後まもなくは精巣が自然に下降することもあるので、しばらくは経過を観察します。しかし、1歳の誕生日を過ぎても陰嚢が空っぽであれば、小児外科医に相談する必要があります。